担当者名 | 森内憲 |
住所 | 大阪市北区中崎3-2-14 |
電話番号 | 06-7500-5519 |
大阪メトロ最寄駅 | 中崎町駅 徒歩5分 |
最寄駅 | – |
営業時間 | 13:30~21:00 不定休:火/定休日:水 |
比較的空いている時間帯 | 月・木・金 15:00〜18:00 土・日 16:00~18:00 |
レトロと最新トレンドが共存する中崎町駅。斬新な店舗、個性が渋滞した店主揃いのこのエリアで、「これぞ中崎」と言わんばかりの雰囲気をまとう『珈琲舎・書肆アラビク/Luft』さん。めずらしい植物に覆われた扉を開けると、ぬいぐるみやアンティークドールなど様々な人形や古本が所狭しと並べられた異空間が広がります。喫茶(現在はお休み)・書籍・人形の三本柱で幅広く手がけるオーナーの森内さんって、いったいどんな人?
オープンの経緯は?
「今は人形メインのお店で、現代の作家さんが作られたものが9割、骨董品としての市松人形が1割です。カフェと古本の販売も行っています。以前はゼネコンに勤めていたのですが、3. 4年スパンで訪れる転勤に疲れてしまい、コーヒーと本が好きだったので地元大阪でそのお店を始めました。小説家の津原泰水さんのファンで、ゼネコン時代よく飲みに行かせてもらっていたのですが、そこで金子國義さんという不思議の国のアリスの表紙も手がけた偉大な方を紹介してもらい、作品を扱わせていただけたのが転換期でした。
ちょうどその頃、 お店を始めるにあたって各方面に挨拶回りしていたのですが、とある人形専門雑誌の廃刊が決まり、その編集長から『バックナンバーを引き取りませんか?』という話が持ちかけられたんです。
非常に優れた論考が掲載されていることを知り、人形作家さんを紹介していただいて、オープンの翌年から人形が並び始めました。」
森内さんが人形を扱う理由は?
「絵画やアートって劣化しない分価値が下がらないんですが、人形は普通の美術と違って壊れやすく、文脈や歴史背景を知らないといけないし、画廊さんとしても手を出しにくい部分があって。
特に市松人形は、どんなに優れた技術者だとしても”可愛くないと”売れないんですよ。だから、扱う側もその”可愛さ”が分からないといけないため、手を出しにくいジャンルになっているんです。担い手の減少で価値が下がるのは悲しいので、市松人形に注力しています。」
ロシアやウクライナなどヨーロッパ地方の人形は写実的でリアルなのに対し、日本はデフォルメの可愛さを追求する風潮があるとのこと。私たちが知らない奥深い人形の世界に、森内さんが案内してくださいます。店内に並ぶ世界各国の人形を通して、時代や地域ごとの比較できたり、国ごとのアイデンティティ、当時の時代背景が想像できたりしておもしろい。
実は日本人は、「人形好き」?
「1000年以上前から『人形』という言葉はあり、日本人に深く根付いて
きたと考えています。日本ではフィギュアやガンプラをお好きな方は多いですが、江戸時代から続く成人男性の人形趣味というのは西洋にはない価値観なんですね。アニメやキャラクターのルーツは人形だと信じています。みなさん『人形好き』という自覚はないと思うのですが、実は人形って私たちの暮らしに身近で、日本人独自の感性の現れだと信じています。」
マイナーと呼ばれるジャンルを担っていく上で、大切にしている思いはありますか?
「メジャーどころでは扱えないけど非常に優れた文化、少数の人が大切に守り抜いてきた文化に共通して興味があるんです。
人形は経年劣化で価値が下がっていく商材なので、敬遠されてしまう。でもこんなに素晴らしい職人さんがいて、日常に浸透している文化なんだし、もっとリスペクトされるべきだと信じているので、使命感を持って日々活動しております。
また、インターネットで購入もできる時代なので、より正確な情報を発信していかないとな、と思っています。きちんとした文献があまりなく、いい加減な文脈やネット情報がやはり多いんですね。僕も最初から人形に興味があったわけではないですが、こういう文化や技術があると知って以来、適切に伝えていかなければ、という義務感に突き動かされているんです(笑)。」
森内さんのモットーや原動力を教えてください。
「後世に影響を与えた大阪の作家さんを紹介していきたいなあとか、作家さんの中では定評があるけどメジャーではない方の小説を発信していきたいなあ、などお店を続けるうちに自分の興味が変わってきたんです。
人形は、何かに役立つ訳でもなければ、経済的利益はあまり出ない嗜好品かもしれませんが、人の心を豊かにするものなので。
目の前にあるものも実はルーツを辿れば人形だったんだということを知ると、世界の見え方が変わると思っていますし、生活がグッと豊かになると思うんです。人形を通して、豊かさの中にいることをみなさんに気づいてほしいなと願っています。」
魅せられてやまない、市松人形の芸術性とは?
「目の作りを見るだけでもいつの時代のものか分かるんです。市松人形は、大名や公家の嫁入り道具として持たせていたのが始まりなんです。それが大正に入り庶民も裕福になると真似するようになったんです。可愛い子を産めるように、だったり頻繁に実家に戻れないのでこの子を見て頑張るんだよという、励ましの意味で送られていたんだと思います。
明治は個性的な表情、大正時代は奥ゆかしく洗練された典型的なものなんですが、昭和はどれも似た表情。伏し目がちのかなり写実的な表情で白目が多く、口元も何か言いたげで、可愛らしくはないんですよ。『嫁として求められる顔』が投影されているようで、それって声をあげられない当時の女性の“呪い”が込められているのかな、とも考えられる。最末期の作品でこんな表情なのって、何かのメッセージなのかなと、想像が膨らみますよね。『市松人形は怖い』と思われがちですが、こんなにもいろんな情報が見えて面白いんです。」
aeru Osaka手帖を持って訪れる方にひとこと
「自分の好みをちゃんと知ってる方って実は意外に少ないと感じていて。インフルエンサーの方や消費社会の影響で、“人気があるもの”や“みんなから人気があるもの”だから欲しい、といったようにステータス的な部分で選ぶ人が多いんじゃないかなって感じます。
『これが自分の好きなものです』って言い切るのは、経験で色々なものを知っておくことや、訓練が必要だと思っていて。
『みんなが好きだから』じゃなく、自分の『好き』を大切にして欲しいです。そんな『好き』を知るきっかけを、ここで見つけてもらえたら嬉しいですね。」
「気になるけどちょっと入りにくそう…」そんな方は迷わずGO。気さくな森内さんの目からウロコなお話を聴きながら、森内さんの唯一無二の世界観を味わい尽くしてみてください。新たな発見や、自分の「好き」を育む“何か”がきっと見つかるはずです。