担当者名 | 吉村祥 |
住所 | 大阪市中央区淡路町1-1-8 1階101号室 |
電話番号 | 無 |
大阪メトロ最寄駅 | 北浜駅 徒歩8分 |
最寄駅 | – |
営業時間 | 火〜金13:00〜19:00/土・日13:00〜18:00 定休日:月 |
比較的空いている時間帯 |
北浜駅周辺は、いつからこんなに包容力のある街になったんだろう。クラシカルな建造物にお洒落な立ち飲みスタンド、リバーサイドのカフェ、様々な背景を持つ多くの人が行き交い、それぞれの時を過ごしている。それに思わず立ち寄りたくなる本屋さんまであるのだから無敵だ。
サブカルチャーの発信源としてじわじわと界隈で注目を集めてきた『FOLK old book store』さんから、絵本を中心に抽出された『子どもの本屋ぽてと』さんがオープン。児童向けの絵本屋さんかと思いきや、よく見るとアートギャラリーがあったり若干“尖がった”感じの書籍もあったり…?ユニークな本棚を作り上げるオーナーの吉村さんは、どんな方なんだろう。
「子どもの本屋ぽてと」とは、どういった本屋さんなのでしょうか?
「以前はお隣のビルで本屋をしていたんですが、現在はその地下で『FOLK old book store』を、『子どもの本屋ぽてと』をその隣に新しく設営して1年半が経ちます。こちらでは児童向けの絵本を中心に置いていますが、絵本の原画の個展をやったりポップアップを行ったりもしています。
FOLKに置いている本は結構サブカルチャー寄りですが、こちらの絵本もその色は強いですね。もちろん、昔からの定番ベストセラー作品や、自分の子どもが幼い時に読み聞かせていたものも置いていますが、サブカルど真ん中の漫画雑誌である『ガロ』(現『アックス』)系の漫画家が描いているものも扱っています。僕個人としては、絵本って凄く『カルチャーしてるな』と思うんですよね。
『からすのぱんやさん』で有名なかこさとしさんも社会運動をされていたそうですし、ジャズの世界で活躍されている山下洋輔さんも絵本に携わっていますし、詩人の谷川俊太郎さんも描いてたりと、絵本というコンテンツってボーダーレスというか、自由にクロスカルチャーしているものだと感じるんです。
イラストレーションが元々好きなので、似たような文脈のある絵本を好きになったのかなと思います。最近のイラストレーターさんも、かなり絵本の表紙などに起用されていますし。
本屋を営んでいると絵本も自ずと仕入れるんですけど、以前は地下だったので売れなかったんですね。他所に出店していたときは売れていたのでもう少し売り上げは見込めるはずなのになあ、と悶々としていました。その中で今のテナントが空いたので、地上で絵本をやってみようと思い至りました。」
そもそも本屋をやろうとした経緯や、本に注目するようになったきっかけは?
「シンプルに本が身近だったのが一番のきっかけですかね。あとは、就職するビジョンが見えなかった。フリーマーケットで出店するなど『ごっこ』的にお店をもつ、という感覚はあったので、まず身近にある本を売ることから始めようかな。というのが派生していって今に至りますかね。
フリマなどに持って行くと買い叩かれてしまうけど、自分の箱があれば自身の裁量権で値段をつけて自由に販売できるので、その形態を理想に勢いで始めました(笑)。」
勢いで始められたとはいえ、13年もの期間、それもこの激戦区北浜で続いているのは本当に凄いことです!
「元々は天神橋の方でやっていたのですが、次の物件を不動産に探してもらうときに、『ロケーションが良くて、音出しと飲食が可能』な場所を条件としていて、紹介いただいたのが隣のテナントでしたね。」
音出しと飲食が可能?本屋さんなのに、ですか?
「以前は隣で、僕がカレーを作ったりお茶を出したりしていたのですが、本屋一本で行こうと決めたので今は別の方に入ってもらったのですが。音楽が好きなので隣でライブもやっていました。あと、お笑いライブをやることも決まっていて。大阪のインディーズの方ですが、ここを時々出入りしてくださっていたのと僕もその方たちが主催されているライブに通っていたので、うちでも出来ないですかね、と今回はこちらが主催する形でオファーが実現しました。」
「イベントもコロナでずっと出来なかったんですが、それ以前は月1のペースでライブをしていました。最初のきっかけは、知り合いの音楽をやってる方から『ここで音楽できへんかな?』と声を掛けてくれたことで、割と受け身だったんですが段々自分で企画するようになってきて。怪談師の方からもお話をいただくこともありました。やっぱり場所を持ってると色んな方が出入りしてくれるので、面白いし有難いです。」
ゆったりとした佇まいとは裏腹に、想像以上にマルチプレイヤーでカルチャーに精通された吉村さん。音楽もお好きで、ライブも現代ポップアートも、芸人さんとのコラボ企画も、ここまでなんでも手がけてしまう本屋さんなんて、今まであっただろうか。ここはカルチャーの海に溺れることができる、総合型複合施設かもしれない。
北浜で10年近くお店をされてきて、この街の変化や移り変わりなど、何か感じられたことがあれば。
「程よい“ザワザワ感”があって良い街ですね。基本オフィス街なので、休日は企画など狙って行わないと集客が見込めないのですが、平日はOLさんが多く立ち寄ってくれます。
ここ最近、おしゃれな方たちが行き来する立ち呑みスタンドやバーが急増したように感じますね。トレンドや流行に敏感な方が多い印象です。」
本をセレクトするときの基準などはありますか?
「勘や感覚でチョイスしていますね。面(表紙)の良い本はやっぱり人気で売れているのかな、と感じます。思わず手に取りたくなるような見栄えの良い本は、不思議なことに大抵中身も良いんですよ。
最初は古本だけ扱っていたんですが、ほとんどを古書組合での仕入れやお客さまからの持ち込みに頼っていたので、自分が望むものを置けないというジレンマがあったんですね。そのうち新刊も入れ始めたんですけど、それからは楽しくなりましたね。自分で好きにカスタマイズできたり、お客さまからも『こんな本を入れてほしい』というご要望があったりして、今やっと本屋っぽくなったなあ、と(笑)。」
小さな本屋さんならではの良さは何だと思われますか?
「大きい本屋さんに越したことはないですよね…なんでも揃ってますし(笑)。ただそれだと、ありすぎて選べない場合が多いですよね。これぐらいの規模の方が、普段は興味のないジャンルだとしても、『ジャケ買い』するみたいにこのデザインが、質感にビビッと来て、手に取ってそこから世界が広がったりするかもしれない。そんな良さはあるかなと思います。隣は地下なので入りにくいかもしれませんが、こちらは路面店ですし、何かいいものないかなぁと、ふらっと立ち寄っていただければ。」
普段なら見落としてしまいそうな本でも、きっと刺さるものがある。手招きして、私を呼んでる本がある。ここに来れば、「出逢いたかった!」そんな一冊がここでは見つかるような予感がします。
お店自体のコンセプトや、吉村さんの座右の銘のようなものがあれば!
「コンセプトが無い、というのがコンセプトですかね。自分が行きたくなるようなお店を目指して、自由にたのしくやっております。
強いて言うなら、『決めつけすぎない』ことですかね。『こうじゃないと』は無いんですよ。本屋から本を買わないかん、だとか本屋やからライブはやらへん、とか。雑貨も置いてますしライブもやりおりますし。なので、本当に何も考えずに来ていただきたいです。」
地上と地下で、全く別の顔を見せるふしぎな本屋。今日は子どもで、次の週末はオトナ。そんな風に、その日の気分でどちらに立ち寄るか決めてみるのもおもしろいかも。SNS全盛期時代をサヴァイブする現代の私たちだからこそ、今本屋に足を運び、生身の本に触れて、知らない世界を潜ってみよう。